health, technology, internet, food and home concept - close up o先頃、日本で初となる「母乳バンク」が昭和大小児科(東京)に誕生した。母乳バンクは、母乳の出ない母親が他人の母乳を購入する上で最も安全なルートと言えるが、供給力が十分でないことが多く、欧米ではネット上で母乳の売買を行うことが普及している。しかし、最新の研究結果によると、ネット上で販売されている母乳の多くには有害なバクテリアが含まれ、乳児に危害を及ぼす可能性があると言う。

世界で定着している母乳バンク

母乳バンクとは病気や早産で母乳が出ない母親に代わり、別の女性の母乳を提供するシステムのこと。母乳提供者は感染症などがないか事前にスクリーニングされ、母乳は低温殺菌処理した後、冷凍保存される。HIVやB型・C型肝炎ウィルスなどの感染者、喫煙者、輸血を受けたことのある女性は提供者になることができない。母乳バンクは先進国を中心に定着しており、例えば北米には11ヶ所、イギリスには17ヶ所の母乳バンクがある。しかし、母乳ニーズのある全てのママが母乳バンクを利用できている訳ではない。ノースカロライナ大学のストューブ助教授(母子衛生学)は、「管理が徹底している母乳バンクを利用するのが理想だが、多くの女性は母乳バンクにアクセスがなく、また、母乳バンクのミルクは、主にNICU(新生児特定集中治療室)に入っている乳児用に使用される」と述べている。

母乳バンクの代替としてネット取引が拡大

WHO(世界世界保健機関)をはじめ、多くの専門家が母乳育児の重要性を訴えており、また母乳で育てられた赤ちゃんはIQが高まるという研究結果も出ていることから、わが子を母乳で育てたいと考えるママが再び増加してきていると言われている。

そこで、母乳が出ないママや、養子を迎えた親たちにとって、母乳バンクの代替として普及してきたのが、インターネットを通じての母乳の売買だ。母乳の売買を仲介するサイトでは売り手、買い手がそれぞれ広告を掲載している。アメリカの大手サイトを見ると、「健康で自然派のオーガニックママが必要な分だけ新鮮な母乳を販売します」や、「母乳バンク認証済み」といった広告が目を引く。中には、「MBA(経営学修士)を持つ高学歴ママ」などといった精子バンクと見間違えるようなアピールをする売り手もいる。価格は1オンス(約30ml)当り1ドル~2ドルが多いようだ。

中国で母乳のネット売買が活発な「事情」

日本においては、個人ブログで母乳の販売をしているケースが稀にあるようだが、仲介サイトなどは存在しない。日本人の感覚からすると、他人から母乳をもらうことに抵抗を覚えることが大きな要因と考えられる。しかしお隣中国では、欧米とは異なる事情で母乳のネット販売が広まっている。2008年に中国製粉ミルクに有害物質「メラミン」が混入する事件が起こり、更には今年8月にはニュージーランドの乳製品大手フォンテラ・グループの粉ミルクに使われている原料からボツリヌス菌が検出され、粉ミルクに対する消費者の不信感が高まっている。このため、母乳の出ないママたちは主に香港で粉ミルクを買い求めていたが、香港当局は香港内での品薄状態を防ぐため、旅行者が持ち出せる粉ミルクの量を制限した。こうしたことから、母乳をネット上で売買する動きが中国全土に広まっているのだ。

母乳のネット売買に潜むリスク

様々な事情で世界的に広まっている母乳のネット売買だが、専門家は衛生面で問題があると警鐘を鳴らしている。先月、ネーションワイド・チルドレンズ病院、シンシナティ・チルドレンズ病院、オハイオ州立大学の研究チームは、ネット上で売買されている母乳を調査したところ、サンプルの約75%から有害なバクテリアが多く見つかり、中には糞便汚染されているケースもあったと発表した。汚れた手で搾乳をしたり、不衛生な容器や搾乳器を使用したことがバクテリアの主な混入原因だと専門家は考えている。

研究チームは、アメリカで最も人気のある母乳仲介サイトを通じて低温殺菌されていない母乳を101サンプル入手し、母乳バンクから入手した低温殺菌前の母乳20サンプルと比較をした。その結果、ネット上で購入したサンプルの方が有害なバクテリアの混入が多く見られ、74%のサンプルは母乳バンクの衛生基準を満たしていなかったという。更に、64%からはブドウ球菌が見つかり、3つのサンプルからはサルモネラ菌が見つかったという。

ネット上で母乳を買うリスクは、母乳を搾乳した後の保管状態や、提供者の健康や衛生状態に関する情報が不足していることだと調査チームは述べている。売り手の19%は、郵送時にドライアイスを含めるといった、低温で母乳を保存する対策を取っていなかったという。実際、郵送時間が長かった母乳ほどバクテリアの混入が多かったという。仲介サイトの運営者は、母乳の搾乳、保管、配送に関するガイドラインを掲載しているが、今回の調査結果を見る限り、多くの母乳提供者はこのガイドラインに従っていないことがわかる。

今回の研究結果を受けて、専門家たちは他人の母乳を購入する場合、提供者の情報がはっきりし、品質管理もしっかりしている母乳バンクを使用することを強く推奨している。また、母乳バンクから提供が受けられず、一般サイトから購入する場合には、医師に相談するように呼び掛けている。

参考元:
Medical News Today: “Online breast milk ‘bad for babies”

CNN.co.jp: “中国で「母乳」販売が拡大 粉ミルク不信で”

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